広がる都市農業の新しい “ウリ”

(なにわの農業塾2016 第1回「直販開拓」 2016.1.19)

直販開拓

大阪市の農業の未来について学び考える「なにわの農業塾2016」が開講しました。 この農業塾では、都市農業に関わるテーマで活動する専門家を講師に交え、 市内農家が中心となって議論を深めていきます。
1月から3か月間全6回のプログラムに取り組み、そこで得られた知見を紹介していきます。

直販開拓

講師の髙橋さん。ご自身の経験や専門知識を活かして、近畿圏の様々な農家さんの経営支援を行っています。

第一回目のテーマは「直販開拓」。 直販とは、市場などを通さずに農家自身が直接消費者に野菜などを売ることです。
当然のことですが、農業で食べていくには、生産した野菜や果物、花などの作物を、多くの方に適正な価格で買っていただくことがとても重要です。
今、野菜などの売り方は、情報技術や流通が発達した今、千差万別と言えるほど多様化しており、 全国各地で様々な取り組みが実践されています。

それでは、大阪市ではどんな販売の可能性があるでしょうか?
270万人が暮らす大都市、大阪。 農家と消費者を直接つなぐ「直販」にはまだまだ開拓の可能性があるのではないでしょうか。

髙橋さんの活動の原点

講師には株式会社農業サポートセンター代表取締役の髙橋 太一郎さんをお招きしました。
髙橋さんは、今や農業分野の国家戦略特区にも指定されている兵庫県養父の出身です。 専業農家の家庭に生まれ、小さい頃から身近に農があった一方で、農地が減って行くことに対してなんとかしたいという思いを募らせていました。
そして農学部へ進学、大手種苗会社に就職されました。そこでは、栽培技術のアドバイスなどを通して農家に寄り添ってきました。
そうやって築いてきたノウハウを活かし、より農家に寄り添い、農業を支えるために現在の会社を立ち上げ独立されました。
そんな髙橋さんのお話を伺い、参加していただいた農家のみなさんと「直販」について考えました。

直販開拓

参加していただいた農家のみなさんの土地条件、経営状況は本当に様々。それぞれの視点からの意見を交換することによって新たな知見を生み出します。

大阪市民が最も新鮮な野菜を手に入れる方法

技術や経験を積んだ力のある農家が作った野菜は、やっぱりおいしい。何事にも変えがたい大きな価値があります。
しかし、その価値に見合った“儲け”を生んでいくためには、「どう売るのか」を見直す必要があります。
栽培技術の向上だけではなく、販売に工夫や努力をしていくことが、市内農家に求められてきています。

野菜の美味しさは「鮮度」で決まる、といっても過言ではありません。

大阪市民が最も新鮮で美味しい野菜を食べるためには、大阪市内産の野菜をできるだけ早い方法で手に入れることが必要だと言えます。
しかし、多くの大阪市民にとって大阪市産の野菜は身近ではないのが現状。
残念ながら近くのスーパーや、いつもの八百屋で「大阪市産」の野菜を見かける機会は、あまり多くはありません。
つまり、大阪市民にとって最も新鮮で美味しい野菜を、大阪市民が手に入れるチャンスはとても少ないということなのです。

一方、農家視点でも、スーパーや市場への出荷では農家自身が値段を決めることができません。鮮度の差があるにも関わらず、他の産地と同じような価格で販売せざるをえません。
市内産野菜の「鮮度」という価値が、「価格」に反映されづらいという問題につながっています。

それらの問題を解決し、農家と消費者をつなぐ方法の一つが「直販」です。 「直販」は市場を通してではなく、農家が様々な方法で市民に直接野菜を販売する形です。
さらに、もし畑で野菜を販売することができれば、流通などの中間コストがかからないため、農家にとっても消費者にとっても嬉しい価格で取引することができます。
もちろん、いいことばかりではありません。直販だけでは売れる「量」に限界があるので、それだけで経営を成り立たせることは至難の技なのです。

直販開拓

市内ではまだまだ消費者が市内産野菜を手に入れるための販路が不十分です。都市という環境を活かした新たな販路を開拓していくことが重要です。

「想いが伝わる」ために

髙橋さんは、消費者に商品を届けるために重要なことが一つだけあるといいます。
それは「伝える」のではなく、「伝わる」ということ。
それぞれの農家が、自分の野菜にこめたたくさんの知恵や想いから、濃縮された一滴を絞り出し、 それをわかりやすい言葉で表現すること。

それを徹底すれば、丁寧に作られた作物の魅力が正確に伝わり、「儲け」につながる道が開けます。

情報技術や流通の発達により、販売する手段は爆発的に多様になりました。 SNS、ECサイトなどのネットを使った販売はもちろん、マルシェなどの数もかなり増えてきています。
それは消費者との接点が、かつてとは比べものにならないくらい増えているということ。
その中で埋もれることなく、他の商品と差別化していくためには、 やはり「想いが伝わる」ことが最重要です。

都市農家は何を売るのか?

流通や情報技術の発達によって作物を売るための方法が多様化してきていることは既にお伝えしました。
さらに一歩進めると、その特徴は大阪市のような都市農業において顕著であると言えます。
消費者との距離が近い立地を活かし、様々な販路をつくることによって開拓できる、新たな生産者と消費者の関係があるのではないでしょうか。
そこで、今回参加していただいた農家の皆さんにご自身の農家経営の「ウリ」を聞いてみました。

まず、都市農業は作物だけでなく、「畑に来る」という体験もウリになるのではないか、ということ。
昔は子どもたちが畑や田んぼで泥だらけになり、カエルや虫を捕まえる遊びが当たり前でした。都市の中で土に触れる機会が激減した子どもたちへ、五感を育てる場所を提供できるということも大きな魅力です。
一方で、花やハーブが美しく栽培されている畑は、癒しの緑地空間としての可能性があります。主婦や若者がたくさん集まり、団らんや食事を楽しむこともできます。
そうやって人が集う場所を作ることで、農家の想いや野菜がどう育つのかということを伝えることができ、野菜を買うことにもつながります。

また安全な野菜を届けるたいという想いで、減農薬に取り組んでいらしゃる方もいます。 減農薬や無農薬栽培は大変な試行錯誤と努力の上に成り立っています。生産者と消費者が直接つながることによって、その価値も正しく伝えられるのではないでしょうか?スーパーで虫食いの野菜があるとなかなか売れないかもしれませんが、 生産者と話し、その想いや工夫や知恵を知ることによって、お互いに納得して取引することができるようになるかもしれません。

このように、消費者が近い大阪の立地は「直販開拓」の可能性がかなりありそうです。
生産者と消費者がつながり、お互いの欲しいことや想いを伝え合うことで、新しい直販の形が広がっていくのかもしれません。
そのためにも、いかに市民が近くの農家と出会い、つながるきっかけを作っていけるのかが、今後の大きなポイントです。

直販開拓

今年も農業塾が始まりました。多様なメンバーで全6回のプログラムに取り組んでいきます。

髙橋 太一郎

guest’s profile

髙橋 太一郎 さん

株式会社農業サポートセンター 代表取締役
http://nousapo.co.jp
農業の現場を知る中小企業診断士として、農業経営コンサルタント業を行う。経済産業省や農林水産省に関する公的支援、6次産業化プランナーなどに就任し、主に近畿圏内で農業者、事業者の支援を行う。

2016.1.19
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : Shibata yosuke(NPO Co.to.hana)

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