大阪市内農業の「人づくり」

(なにわの農業塾2016 第2回「担い手育成」 2016.1.26)

担い手育成

大阪市内の農家世帯数は、2015年の時点で934戸となっています。この数を多いとみるのか、少ないとみるのか、皆さんはどう思われますか?

30年前、農家世帯数は2,011世帯でした。ここ30年で約1,000世帯以上の農家がいなくなったことになります。世帯人数を見てみると、なんと6,000人近く減ってしまっています。(*大阪市農業委員会調べ)
これは農業を辞める人が増えていることはもちろん、今も農業を頑張っている世帯の中でも、高齢化や子ども世代の独立が非常に進んでいることを示しています。
最近は、この減少度合いは少しなだらかになってきています。とはいえ、現役農家の多くは60代〜80代。大阪市農業がこれからの30年残っていくために、「担い手育成」について考え、世代を超えて力を合わせこの課題に取り組んでいくことは急務だといえます。

担い手育成

講師の岩崎さん。独特のキャリアで培ってきた考え方を武器に、農業分野に新しい動きをつくっています。

第2回のテーマは「担い手育成」。
講師には、NPO法人スモールファーマーズの岩﨑吉隆さんをお招きしました。岩﨑さんは京都府宇治市に畑を構え、そこを中心に新規就農希望者に向けた農業研修プログラムを展開しています。
しかし、そもそも岩﨑さんの生い立ちの話を聞くと、暮らしの近くにいつも農業があったわけではないとのこと。
就職もIT系で8年ほど勤めあげ、その後自らITの分野で起業し活動してきました。順風満帆な社会人キャリアを築いてきた岩崎さんですが、物事がスピーディーに流れ「待つ」ことがないITの世界に疲れはじめます。ちょうどそのころ、友人の紹介で参加してみた田植え体験や家庭菜園で「農」と出会います。土に触れ、自然の時間に身を委ねる経験は、それまでにない豊かな時間でした。それ以来、将来の生き方を考え、ITではなく農業の可能性を追求することを目指すようになりました。
そして、2007年に株式会社マイファームを創業。初心者向け貸し農園事業を展開してきました。そこでみえてきた新たな課題を解決するために2012年、現在の所属であるNPO法人スモールファーマーズを立ち上げ、ずっと取り組みたかった農業教育事業を開始しました。

都市部を中心に広がる、新規就農への関心の高まり

岩﨑さんは、東日本大震災以降、都市部での新規就農者数は確実に増えていると話します。
岩崎さんが事業を行う京都の畑には、大阪市内はもちろん遠くは東京からも参加者が集まってきています。年齢も20代~40代の若者を中心に、上は定年退職した70代の方もいらっしゃるとのこと。
食への不安や、自然から遠ざかった都市の暮らしに疑問を持ち、農業を志す人がとても増えていることを、事業の成長と共に実感されています。
実際にスモールファーマーズの研修をうけるためには年間40万円の受講料が必要です。決して安くない価格設定ですが、それでも多くの参加者が本気で参加しているという事実は、農業を目指す人が増えているということを示しています。

担い手育成

参加いただいた方は、70代以上の超ベテラン農家から、30代の若手まで、図らずとも多世代となりました。

大阪市内で新規就農することの困難

それでは大阪市内での新規就農はどうでしょうか?
結果からいうと、市内に農地を借り新規就農することはかなり難しいといわざるを得ません。法律上や経営上の制限で、農地の貸し借り、家族以外への譲渡がほぼできず、農家の家族以外の人が就農が全くないというのが現状です。
つまり、大阪市内の農家が後継者を見つけるためには、「家族に継いでもらう」という選択肢が現実的かつ最も重要なポイントとなります。
岩﨑さんから、そのことに対しても自身の活動からみえてきた視点でいくつかアドバイスをいただきました。

担い手育成

岩崎さんの取り組みのエッセンスをどう大阪市内農業に取り込んでいくか、真剣な議論が行われました。

担い手を育成するために重要な7つの伝え方

若い世代や農業を知らない人が、ワクワクし、自ら学んでいきたいという意欲を持ってもらうためのコツは、市内であっても農村部であっても同じです。岩﨑さん曰く、それには7つのポイントがあるとのこと。

1. 定量的に伝える
あらゆる作業を感覚ではなく、数字で伝える。
数字で伝えることで、誰でも同じように仕事をこなせるようになります。それがわかれば、少しずつ感覚が磨かれていきます。

2.作業のチェックリスト化
ベテラン農家の頭のなかにある工程を、チェックリストで書き出すこと。これも、経験がものをいう農業をできるだけ入りやすくするための工夫です。新規就農者は、ここがわからず挫折する人が多いのも事実です。

3.なぜ?を説明する
あらゆる農作業の意味を、やり方とセットで伝える。やることだけを伝えても、「なぜ?」がわからなければ、想定外の時に考える力が身につきません。農業には臨機応変な対応を迫られる場面がとても多くあります。

4.失敗を積み重ねる
経験しないと体には身につきません。失敗したことに対しても、その理由を分析し、次に活かす癖を身につけることで、個性的でその人に合った農業のカタチが生まれてきます。

5.実験する
農業は基本的に1年に1回しか経験の機会がありません。それをできるだけ増やすための「実験」。播種時期を変えたり、肥料を変えたりして実験することで、経験値が格段に変わります。
特に新規就農される方は、まずは一気にたくさん試してみると良いと思います。

6.選択肢を与える
教える側は、自分のやり方を押しつけがちです。農業は、人によってやり方がそれぞれ。正解を教えるのではなく、選択肢を与える。そうすれば、やりがいを感じ主体性が生まれます。
しかし、与えられた選択肢の中から、自分の考えで選ぶための基礎知識を身につけることは大前提です。

7.根底を見せる
これは農業に限らずですが、仕事に対する想いを伝えること。生き方や価値観が伝わっていないと、なぜその農業経営を行うのか、なぜその商品を売るのかが理解できません。
上辺の技術だけではなく、そこまで伝えることで深い信頼や経験が培われます。

担い手育成

家族に農業を継いでもらうためには、当たり前のことですが日々の会話やコミュニケーションを見直す必要があると岩崎さん。

大阪で研修ブランドをつくれるか?

さらに、市内農業で人を育てることの可能性として「研修の受け入れ」があります。
実際に研修生が農業を継ぐことは難しくても、志の高い人を受け入れることで、貴重な働き手を確保できるというメリットがあります。また、研修費として収益を生める可能性もあります。 さらに、市内で経験を積んだ研修生が日本各地で就農することは、日本の農業者を増やすことにもつながります。
一方で研修を受け入れるデメリットとすれば、その人とのミスマッチングが考えられます。考え方などが根本的に違うと、うまく戦力にならないこともありえるので、試用期間などを取り入れ、受け入れを慎重にする必要はあります。仕事の振り方もとても重要ポイントです。作業を一つずつ指示をすることは、労力も余計にかかってしまいますし、なにより本人の学びやモチベーションにつながりません。重要なのは「担当」を任せること。例えば、「キャベツ担当」や「トマト担当」など。ひとつの作物の全工程に責任をもたせることでモチベーションもあがり、様々なことに対応できる知識も身につけることができます。

今、大阪市内では研修の受け入れはほとんど行われていないとのこと。
しかし受け入れ体制を整えることができれば、この好立地を活かした「研修」は大きな可能性となりえます。「農業したいのなら、まずは大阪市で修行を積むべし」というようなブランドが浸透すれば、人手不足で十分に耕作されていない畑の問題も解決されるかもしれません。

担い手育成

担い手育成も大阪市内では、急務かつとても大きな課題。分野を超えて連携し、持続可能な市内農業の実現にむけて考え続けていかなければいけません。

新しい人を受け入れたり、これまでの経験や知恵を見える化することは大変な作業ですが、行動次第で市内の「担い手育成」の可能性も無限大と言えそうです。

岩崎 吉隆

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岩﨑 吉隆 さん

NPO法人スモールファーマーズ 代表理事
http://small-farmers-college.org
IT社長から一転、2007年に農業ベンチャーを設立。農業生産法人や社会人向け農業学校など農業ビジネスを多数立ち上げる。自らのリアルな農業現場経験と業種を問わない数々の起業経験を元に、農業ビジネス新規立ち上げから現場の栽培技術指導までをトータルに支援する農業ビジネスコンサルタント。

2016.1.26
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : shibata yosuke(NPO Co.to.hana)

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