街と一緒に育む農業のカタチ

(なにわの農業塾2016 第3回「体験農園の魅力と運営 -都市農業の実践と展望-」 2016.2.2)

農業体験農園

あなたの住んでいる街に「畑」や「田んぼ」はありますか?
大阪市や東京都でも、周縁部や都心近郊のエリアにはまだまだ農地が残っていますが、そのことを知っている人はあまり多くありません。

もし、都市近郊の住宅街の中に農園があるとしたら、どんな暮らしができるでしょうか。
都市に住み、都市で働きながらも農のある自然あふれる暮らしができるかもしれません。

なにわの農業塾第3回のテーマは、そんな暮らしを実現でき、さらに都市農業の新たな経営のカタチとしても注目されている「農業体験農園」です。
講師には、東京都練馬区でこの仕組みを生み出し、今も実践されている白石 好孝さんをお招きしました。

都市にお住まいの方は、一度自分の地域を見回して下さい。もしかしたら、農地はあるけども、あまり作物が育てられていないため、ただの空き地だと思われている場所もあるかもしれません。「農業体験農園」はそういった“低利用地”を地域のために生まれ変わらせることができる力も秘めているのです。

農業体験農園

講師の白石さん。20年に渡り体験農園を練馬区で運営。現在は全国各地で体験農園を普及する活用や地域の食育活動などにも関わっておられます。

東京・練馬の農業

東京に限らず、現在都会になっている多くの地域は元々農業が盛んでした。
農業が盛んだったからこそ、道具を作る人が生まれたり、モノを売る人が生まれ産業が多様化し、農村が町となり都会になっていったのです。
これは見方を変えると、元々は都市は農業をするのに適した自然環境だということです。
「せっかく農業に向いているのに少なくなってきている。これは少し本末転倒ですよね?」と白石さん。

白石さんが農業を行う練馬区は、23区内では世田谷区についで2番目に人口の多い地域です。
さらに23区内の農地の4割を占める、農業の街。都内にして「農業の街」なんで少し意外な響きですね。
とはいえ、60年前はもっと田畑の風景の広がる農村でした。こんなに都会化したのはここ最近とのこと。

白石さんは、そんな練馬区で1.4haの畑を運営しています。300年前から続く代々の農家です。
練馬区の農地も大阪市に似て、小規模な農地(50a程)が散在する立地になっています。
そして元々は市場出荷がメインでキャベツの産地でした。

しかし、産地が大規模に生産したものと価格競争することになるので、農業経営としてはかなり大変なことでもありました。
今は、伝統野菜の練馬大根を復活させたり、野菜の自動販売機を増やしたりなど、練馬の農家は様々な工夫をしています。やはり大消費地・東京に近い立地を活かして、直売、スーパーとの契約販売などに切り替わりつつあります。

農業体験農園

実際に体験農園を運営し、儲けを生んでいる実践者のお話はとても学びが多く、すぐにでも市内農業に取り入れられそうな期待が膨らみます。

「大泉 風のがっこう」

白石さんも直売に取り組んできましたが、これは市場出荷に比べて効率が良くありませんでした。
市場出荷は、ケース詰めや販売までかなり合理化されていますが、直売で同じだけ稼ごうと思うと、どうしても時間がかかってしまいます。市場流通は、“うまくやれば”一番の売り方なのです。
しかし東京は、どうしても産地に比べて農地面積が小さく量が作れないので、市場出荷だけでは難しい。
そこで、もっと都市農業ならではの稼ぎ方、農家経営を考える必要がありました。 

そんなことを同じ練馬区の農業仲間と話すうちに、都市住民に農を教えながら作物を栽培するカルチャースクールのようなことはできないかというアイデアが生まれました。

当時、東京には行政や区がやっている市民農園がたくさんあり、とても流行っていました。
ただ、これはどこも無料に近い価格でした。 しかも役所の職員も、運営やクレーム対応などで人手がとてもかかるという課題を抱えていました。
もし、これを農家がやって、収益を上げられるなら双方にとってとてもいい仕組みだということになります。

しかし、ここでネックになったのが「生産緑地」という都市農業の制度。
この中に「農家自身が耕作しなければならない」というルールがあります。
なので、単純に畑を貸すだけの市民農園は、練馬区ではできませんでした。

ここで白石さんたちが生み出した仕組みが「農業体験農園」でした。
体験農園のポイントは、農家さん自身が栽培しているということ。
そこに市民の人が参加し、一緒に栽培を通して、指導や体験を行うというものです。農業生産を放棄している貸し農園とは正反対の考え方から生まれた仕組みです。

なんども勉強会を重ね、農家や行政を巻き込みながら区役所の支援を取り付け、1996年、ついに練馬区第2号の農業体験農園として、「大泉 風のがっこう」がオープンしました。第1号は、その前年に同じ農家仲間で発案者の加藤さんに次いでのオープンでした。
今では、60aの広さに137名の市民が参加し、白石さんと共に安心安全でおいしい野菜を栽培しています。

農業体験農園とは?

農業体験農園は、市民農園とは全く違う形で市民が農に参加することができる仕組みです。
参加者は農園主(現役の農家)が計画した作付けに従って、講習を受けて基本的な技術を学びながら、野菜を栽培していくことができます。
市民農園のように、参加者が自由に栽培する野菜は選べませんが、農家さんの指導の元栽培できるので初心者でも品質の高い野菜を収穫することができるというものです。
体験農園が生まれた背景の一つには、大阪市や東京などの都市部などの農地は市民農園のように他人に貸借りすることができないという法律の制限があります。
(正確には、「市街化区域」の中にある「生産緑地」指定を受けている農地が他人への賃借が制限されています。)
せっかく周りに人が近くにたくさんいるのにもかかわらず、その人たちを受け入れる仕組みがなかったのです。
そういった課題を解決する画期的な農業経営の形です。

農業体験農園

実際に自分たちの農業に取り入れるために、なにがネックになるのか。リアリティがあり熱のこもった議論が生まれました。

体験農園の「儲け」

農業体験農園はどんな「儲け」を生むのでしょうか?具体的な数字を出しながら説明していただきました。
まず白石さんの体験農園は、年間参加費が4万4千円です。137組の参加者がいるので、およそ600万円の収入が年度始めに入ってくることになります。10a換算で100万円以上の売り上げということになります。
一方で同じ畑で練馬区の特産であるキャベツや大根を市場販売した場合はどうでしょうか。
全国平均で約75万円ほど、練馬区であれば40万程度となっています。
さらに体験農園は、野菜を販売するための梱包や運搬などもなく、栽培にかかる労力も少ないため、人的コストも低く抑えることができます。つまり経営視点から見ても、非常に効率的な方法でもあるのです。

体験農園は、はじめるハードルが高いと思われがちですが、そんなことはないとのこと。
講習や市民への指導などを行うため、コミュニケーション能力が問われると思われがちですが、たとえ寡黙な農家さんであっても、技術が本物であれば熱心な参加者は積極的な学びの姿勢を持っているので大丈夫だとのこと。
実際に練馬区では2016年3月現在、16か所の体験農園が生まれています。

農業体験農園

実際に市内で体験農園をされている方もいらっしゃり、参加者それぞれの農業経営の状況なども踏まえてお互いの意見交換を行いました。

東京で農業をやめない理由

白石さんは、東京のような都会で農業をする苦労を語ってくれました。
「街なかで農業をやるときに必ず避けて通れないのは、近隣住民との関係性ですね。風が吹くと砂が舞う、夏場は虫が多いなど、様々なクレームを言われる人が多いと思います。大阪市ではそういう声はありますかね?
また、都市農地はほとんどが小さな面積で、散在していることが多いです。そのため大量生産に向いておらず、農村地域の産地で大量に作られる野菜には量では敵いません。その年の出来によって価格が左右されやすい市場出荷では、都市農業を経営していくことは苦しいのではないでしょうか。」

それでも、と白石さんは続けます。
「これまで、農家は自分の畑を人に触れたくないといったプライドが高く閉鎖的でした。しかしその固定概念を打ち破り、オープンにすることで近隣とのいい関係を築くことができます。なぜなら今、都市で暮らす人たちは、土に触れたり自分で安全な野菜を作って食べたいと思っているからです。昔は“百姓”という言葉は蔑みのニュアンスを含んでいましたが、今は若い人たちの中でもその価値が見直されています。
つまり東京でオープンな農業をやることは、住民の方から尊敬される仕事ができるということなのです。うちの体験農園に参加されている皆さんは、本当に熱心に畑に取り組んでくれるので大きな人手となっていますよ。安定した収入にもなり、人手も確保でき、何より地域からの尊敬と信頼をいただける。そしてそれを見て育った子世代がまた農業を継いでくれる。都市農業にはそういう可能性があると思っています。」

農業体験農園

様々な世代と関わりながら、少ない労力で大きな儲けをうむことができる仕組み。それぞれの参加者が抱えている課題を解決してくれるかもしれません。

以上で農業塾第3回目のレポートとなります。
実はこの塾の前に、実際に白石さんの体験農園を見学させていただきました。 見学をしている時も近隣の住民の方が頻繁に白石さんにご挨拶されていたり、体験農園でも何人かの方が自主的に畑仕事をテキパキとこなしていました。
白石さんとの信頼関係が見て取れ、都市農業の大きな魅力を体感することができました。

これを機に「体験農園をはじめる!」という方が増えれば、市民にとってもとても価値のあることだと思います。
始めたいという方は、全国農業体験農園協会がノウハウや設立準備についてアドバイスやサポートをしてくれるとのこと。興味がある方は、ぜひ一度アクセスしてみてはいかがでしょうか?

髙橋 太一郎

guest’s profile

白石 吉孝 さん

白石農園 代表 / NPO法人畑の教室 理事長 / 全国農業体験農園協会 理事
http://shiraishifarm.jp
1977年4月東京農業大学農学科卒。経営面積140アール。80アールの畑で約100種類の野菜を生産直売。市場には出荷せず、自家販売・スーパーとの契約・JA直売所で販売。地域の小中学校2校の給食に野菜を納品している。また、農業体験農園「大泉 風のがっこう」60アールを運営。 その他、食農教育活動として年間約1,000人の小中学生を受け入れている。

2016.3.8
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : shibata yosuke(NPO Co.to.hana)

大阪市内農業の「人づくり」

一覧へ戻る

農家と消費者の本当に対等な関係

Top