農家と消費者の本当に対等な関係

(なにわの農業塾2016 第4回「小規模高収益な都市農業」 2016.2.16)

小規模高収益な都市農業

なにわの農業塾第4回目のテーマは「小規模高収益な都市農業」。
農地も狭く、農村部の産地と比べ生産量がどうしても少なくなる都市農業では、いかに効率良く収益を上げていくのか、という工夫が農家の生命線になります。

一方で、消費者との距離が近いという利点も、都市農業にはあります。
そこを巧みに活かし、独自のキャリア経験で培った考え方で儲かる農業を実践しているのが、今回の講師のタケイファーム武井さんです。

自分の作りたい野菜、やりたい仕事をしながらも、収益が安定した農業経営を実現するために武井さんが歩んできた道のりや試行錯誤。そのお話から、市内農業における農業の可能性を探りました。

小規模高収益な都市農業

講師のタケイファーム武井敏信さん。松戸で1人で都市農業を経営されています。

農業の世界に入った意外なきっかけ

武井さんが農業を行うのは、千葉県松戸市。
東京の都心から電車で30分程度の都市近郊地で、ネギと大根の生産、市場出荷が盛んな地域です。武井さん自身も代々の農家の家庭に生まれ、後継者として小さい頃から農業を志し・・・ていたわけではありませんでした。

今でこそ、農業の大切さが見直されてきていますが、当時は農業という仕事に対してのイメージは必ずしも良くなかったとのこと。周りから心ない言葉も投げられることもあり、子ども心に「絶対に農業はやらない」と決めていたと言います。
そんな想いもあり専門学校卒業後は、秘書業、車の営業職、などに10年以上勤めました。 しかし、今の仕事は将来もずっと続けたい仕事なのかという疑問が頭をよぎり、退職。 それから10か月間、自分の天職を見つけるべく様々なアルバイトなどを経験しましたが、しっくりくるものはなかったと言います。
そして、お父さんが現役で行っていた「農業」の世界になんとなくの気持ちで踏み入れたことが農業に入ったきっかけでした。必ずしもポジティブな気持ちではなかったとのこと。

「農業をやり始めたものの、全くの無知でした。1か月間は仕事もできず、ただただ畑に立っているだけでしたね。そうこうしている内に、父からトンネルパイプを持ってきてくれと言われ、それを運んだのが初めての仕事でした。それから少しずつでも、わからないなりに自分で種をまいたりして、とりあえず栽培を始めてみました。」 と武井さん。

小規模高収益な都市農業

これまでの考えには全くない売り方、見せ方で都市農業を経営する武井さんのお話に刺激を受け、参加者同しの話し合いも活性化しました。

アルバイトしながら儲かる農業を模索した5年間

わからないなりにも始められた栽培でしたが、小松菜などが結構できてしまったと、武井さん。当時はお金もなかったので、身近に始められるヤフーオークションを使って、野菜セットとして販売されたようです。
松戸は京都や金沢のように地域ブランドがあまりありません。そこで、付加価値をつけなくてはと考え、これも明確な戦略はないまま無農薬栽培に取り組むこととなります。
そこから2年間野菜セットの販売を行い、売れ行きは順調でした。

しかし収入としてはとても生活していけるレベルまではほど遠い状況でした。
そこで、野菜セットの年間契約販売も行うことに。一回の購入額が数千円から数万円に上がり、少し収益が安定するようになります。
様々な工夫を行いますが、家族が生活していける水準には届かず、5年間はアルバイトも兼業し、睡眠時間3時間の生活を送っていたとのこと。
その5年間は「一つの野菜からどれだけ稼ぐのか」ということをひたすら考え続ける時間でした。

もう一つ、力を入れていたのがブログ。珍しい野菜が収穫できたり、その味などについて発信を行いました。ここで、武井さんの営業職での経験が活きることになります。

「よく農家がブログで発信するのは、農作業のレポート。種撒いたとか、ビニール張ったとかですね。これは実は主な購買層である主婦たちにはあまりどうでもいい内容なんですね。だから僕はそういうことはあまり発信せず、お客さんがどんな情報が欲しいかを常に考えて情報発信を続けていました。
主婦の方たちが見たことないであろう品種の野菜や、その食べ方などについて書いていくと、興味を持った方からのコンタクトが増えてきました。」

小規模高収益な都市農業

市内在住農家さんで、武井さんと同じく西洋野菜にチャレンジする方も。同じような問題意識や話題で盛り上がる一幕もありました。

営業は、絶対にしない。

武井さんの信念として、「営業はしない」ということがあります。
これは前職でずっと営業をする中で、「もう人と話すもの嫌だ」というくらいに疲れてしまった経験を繰り返したくないという決心です。
しかし、営業もせず、新しいお客さんはどうやって獲得していくのでしょうか?

「そこで、先ほどのブログです。徹底的にお客さん目線で情報発信や、栽培する野菜を決めていきます。そうすれば噂が噂を呼び、どんどんとお客さんが増えていきました。そうこうしているうちに、イタリアンやフレンチなど、珍しい野菜を取り扱いたい飲食店からの連絡も増え、徐々に個人販売から飲食店販売へと比重が移ってきました。
営業は全くなしで、現在では43店舗の飲食店と契約しています。販売方法は、野菜セットの契約販売。こちらで金額に合わせて詰め合わせたセットを、週の決まった曜日に配送するというものです。」

今では、個人向けの野菜セット販売はほとんど行っていないとのこと。 ネットオークションから始まり、様々な試行錯誤の末にこの農業経営の形にたどり着いたとのこと。
そう、飲食店への販売が、武井さん流の儲かる都市農業のカタチだったのです。

お客さんとの付き合い方、お客さんの選び方

しかし飲食店への販売は、やり方を間違えると経営的に難しいこともあるそう。
一般的には、農家がまず「今とれる野菜のリスト」を送り、飲食店が「欲しい野菜のオーダー」を出すというシステム。この形では多くの場合、都市農業にとっては厳しい関係になってしまいます。飲食店も複数の仕入先があり、場合によってはオーダーのない週も出てきてしまい、収入が不安定になります。
武井さんと飲食店の関係は、これとは全く違っています。
まず発送する曜日は固定。1店舗につき、週に1回です。
そして決まっているの野菜の金額だけ。最低ロッドは5,000円から上限なしです。 金額に合わせた野菜セットを送るわけですが、その内容は武井さんのおまかせとなっています。

でも、そのやり方で飲食店からクレームなどはないんでしょうか?

「飲食店から、これはうちでは使えないですよ。と言われることはあります。そうすれば次からは、使いやすい野菜を入れたりとかなど、それぞれのお客さんに合わせて入れるメニューを変えます。野球に例えるなら、僕はバッティングピッチャーなんですよね。バッティング練習で、バッターが気持ち良く打てる球を投げなければいけない。打ち取ってしまってはいけないんですよ。それぞれの飲食店のことを理解して、適切な内容を入れるように顧客管理しています。」

これは、さすが営業職を10年経験してきた武井さんならではの技と言えそうです。 逆に創造性あふれるフレンチやイタリアンなどでは、市場では絶対に流通しない野菜が好まれることもあるそう。
例えば、まだまだ規格サイズまで成長していない小さな小松菜など。普通はザク切りにして調理しないといけない小松菜も、小さければそのまま皿に乗せることができます。
ハーブやスプラウト野菜などの大量購入されにくく単体で販売しにくい野菜も、セットに入れると飲食店も嬉しいし、生産者も儲けにつながります。

そうやってお互い対等な関係で、創造性を刺激し合う飲食店と取引をしていきたいと武井さんは話します。
そうしていくことで、1週間、1か月、はたまた1年の収入がある程度読めるようになり、安定的な農家経営ができるようになるという大きなメリットがあります。

小規模高収益な都市農業

市内農地では、西洋野菜や珍しい品種の野菜はあまり育てらておらず、あったとしても経営上の主力商品にはなっていません。

 「おいしい」の定義はない。

武井さんが唯一飲食店以外に野菜を卸しているところがあります。それは新宿伊勢丹。その真意についてもお話ししていただけました。

「松戸には野菜のブランドはないから、タケイファームのブランドを作らないといけないと思っています。『どこで武井さんの野菜は買えるの?』と聞かれた時に、伊勢丹でしか買えないとなると、それだけで野菜のブランドになります。もちろん伊勢丹に取り扱ってもらうために、野菜のクオリティはもちろんパッケージの袋などにも徹底的にこだわります。他の店から取り扱いたいという連絡を受けることもよくありますが、ほとんどお断りしているのが現状です。
そうやってブランド力がつくことによって、野菜を食べるお客さんの感動体験も変わってきますよね。」

新宿伊勢丹の売り場に入れるのはバイヤーさんに選ばれた農家のみ。そこに残り続けることは並大抵のことではありませんが、常に創意工夫、お客さん目線の改善を怠らない武井さんの姿勢が実り、現在もレギュラーメンバーとして野菜を販売しています。

また、武井さんの特徴的な取り組みとして「ベジ会」と「ベジタブルポストカード」があります。
「ベジ会」では、武井さんの野菜を購入しているお客さんや、講演などでつながった人を招き、野菜を取り扱ってくれている飲食店でランチやディナーをするイベント。2か月に1回実施し、すでに28回も開催しているとのこと。様々な人の出会いを生み出す場になっているとのこと。
「ベジタブルポストカード」では、野菜の配送の中に、月に一回タケイファームの野菜のポストカードを同封するということ。デザイナーと協働し作った、スタイリッシュなポストカードはお店で飾られたり、毎月集めたいという人が出るくらい人気なんだとか。

こういった取り組みは一見時間もコストもかかりますが、お客さんとの信頼関係を育てるのに大きな役割を果たしているそうです。そうやって、タケイファームの熱いファンになってもらうことも「おいしい」に繋がっているのではないでしょうか。

小規模高収益な都市農業

タケイファームが毎月発行しているポストカード。なんと写真は武井さん自身が撮影しているとのこと。

志を持った農業

最後に紹介したいのは、武井さんが今取り組む「日本最大級のアーティチョーク農家」。
アーティチョークはフレンチやイタリアンでは一般的な食材ですが、日本ではまだまだ生産や流通が少なく、かなり高価で取引されています。
武井さんは、日本でも旬の時期になるとアーティチョークを使ったメニューが、当たり前にあるようにしていきたいという野望があります。
そのため現在900株以上のアーティチョークを栽培しています。
武井さんは、なぜアーティチョークに力を入れるのでしょうか?
「アーティチョークは一株がかなり大きいため、広い栽培面積が必要です。さらに一度植えると何年もそこで栽培するものなので、他の作物を育てることはできません。普通に野菜を栽培することと比べると、必ずしも儲かるとは言えない一面があります。
しかし、それでも僕が取り組むのは、自分が死んだ時に世の中に「タケイファーム」の名前を刻みたいからです。日本のアーティチョークといえば、タケイファームだよね。と言われるようになりたい。これはお金のことだけではなく、志の部分が大きいですね。」

武井さんは、質の高い仕事に取り組む以上、お金以外のモチベーションが必ず必要だと言います。それは飲食店販売や、自分のアーティチョークを都内の一流レストランで使ってもらうといった、都市農業だからこそ追求できる部分もあると話してくれました。
武井さんの農業のカタチからは、消費者、飲食店、そして生産者の対等な関係性が見えてきました。それはお互いに刺激を与えあい、高め合い、食べることの幸せを追求しあう関係です。
そのためにはお互いの事を理解する、並大抵ではない努力が必要なことも学びました。 まさに東京という大消費地を舞台に活躍する、新しい都市農業のカタチと言えるのではないでしょうか。

武井 敏信

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武井 敏信さん

タケイファーム 代表
http://takeifarm.com
農業の奥深さに惚れ込み、「野菜創りに終わりはない」という思いのもと、おいしい「品種」にこだわって農業を経営している。「ひとつの野菜でさえも、人の人生を変える力を持っている」ことを多くの人に伝える、ベジタブルエバンジェリストであり、ベジタブルデザイナー。一般社団法人野菜プラネット協会理事。

2016.3.14
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : madoka nakamura(NPO Co.to.hana)

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