東京流「つながり」で活きる都市農業

(なにわの農業塾2016 第5回「新しい都市農業のカタチ -農業者ネットワークの可能性-」 2016.3.1)

農業者ネットワークの可能性

東京と大阪は都市農業の視点からも多くの共通点があります。
なにわの農業塾第5回目では、東京の都市農業の現状から学ぶために、農家支援活動を行う東京農業会議の松澤 龍人さんをお招きしました。

ご自身の所属にとらわれないフットワークの軽さで実現した、東京の新規就農者を中心としたネットワーク「東京NEO FARMERS!」の取り組みや、都市農業独特の制度などについてお話しを伺いました。
東京の取り組みから見えてきた、大阪市内農業にも活かせるエッセンスを紹介していきます。

農業者ネットワークの可能性

講師の松澤さん。制度の専門家ということもあり、農業者ネットワークの話し以外にも、参加者からもこれから変わっていく法律、土地の制度についての質問が多く飛び出しました。

都市農業ならではの制度

まずは、都市農業独特の制度についてご紹介します。

「都市農地」には大きく分けて二つの農地があります。「市街化調整区域」にある農地か、「市街化区域」にある農地です。
この区域というのは、都市を計画していく中で、「市街化を制限するエリア(市街化調整区域)」と「市街化していくエリア(市街化区域)」を明確にし、税制や土地利用についてのルールを定めるものです。
実は大阪市内の農地は全てこの「市街化区域」の中にあります。
つまり、市内の農地は「将来的には市街化すべき土地」だと、制度上は見なされているということになります。

市街化調整区域と比べると、税制面や支援体制などが農家にとって厳しく、新規就農はほとんど不可能と言える状況にあります。また税金なども厳しく課せられ、猶予を受けるためには様々な厳しい条件をクリアしなければいけません。
これらの背景は、農地減少や、後継者の減少に影響を与えていると言わざるをえません。
また、市街化区域では納税猶予を受けるためには「農地を貸せない」というルールがあるため、農業を営むことが難しく、農地を手放さざるを得ない人もいます。

しかし近年、低い自給率や農業後継者問題、国民全体の食や農への関心の高まりなどを受け、都市農業の価値が見直されつつあります。2015年4月、「都市農業振興基本法」が成立し、「都市の農地は守るべきもの」として、大きく風向きが変わったのです。

東京の新規就農のムーブメント

東京の新規就農の流れは、「市街化調整区域」で生まれています。
市街化区域で新規就農が難しいことは、東西共通。その部分の変革に至るまでには、大きな制度改革が必要で時間がかかります。
新規就農者は、市街化区域では新しく農地を借りることができないのも大きな要因です。
一方で行政の農業支援としては、島や山村部、市街化区域へ集中しており、調整区域は大きくは着目されていませんでした。

そんな中、松澤さんは市街化調整区域の遊休地の増加や農業者人口の減少に目をつけます。
20年間、農業政策に接した仕事をしてきた経験と、行政や様々な関係者との関係性を生かして、「自分なら何かできるかも」と、新規就農者支援に向けて、独自に立ち上がられました。

そして2011年、初めての新規就農者が誕生しました。
土地を貸すことに慣れていない地主との地道なコミュニケーション、就農希望者への丁寧なフォローなどを行い、東京都内の市街化調整区域での初めての新規就農者をアシスト。
それまでの道のりは決して平坦ではなく、困難を乗り越えるために頻繁に行っていた飲み会が、実は今の「東京NEO FARMERS!」の元になっているとのこと。 初めての新規就農は新聞にも大々的に取り上げられ、「自分も就農したい」という人がちらほらと現れ出しました。
そしてそういう人をどんどん飲み会に誘い込んで行き、月に一度みんなで集まることが定例化していきました。

農業者ネットワークの可能性

大阪市内の農業は、不動産事業との両輪での経営が多いため、制度面でも頭を悩まされる場面が多く見られました。一方で世代を超えた参加者同士で、ネットワークの可能性についても探りました。

東京NEO FARMERS!の誕生

松澤さんは眉をひそめながら、若い世代の新規就農は、必ずしも万人に受け入れられるものではなかったと当時を振り返ります。
これまでの常識では考えられなかったことなので、当時は批判や反対者からの風当たりも厳しかったと言います。

しかしその時も、月一で新規就農者と松澤さんによる飲み会は、仲間同志で士気を高める大きな支えとなりました。
その時には、農家だけではなくデザイナーなどの他業種の人も参加するようになっていました。そしてデザイナーの発案によって、「この集まりに名前をつけよう!」ということになり、「東京NEO FARMERS!」が生まれることになりました。

そうやって活動を続け、新規就農者が増えていくにつれて周囲の理解も広がっていったとのこと。
東京NEO FARMERS!では、マルシェや情報発信なども積極的に行い「ここなら自分に合った新しい農業ができるかもしれない」という若者が集まるようになっていきました。

そして東京都としても、新規就農を支援するための仕組みを作るまでに至りました。

農業者ネットワークの可能性

東住吉区で農業を営む西野さん。松澤さんとは以前からのお知り合いで、とれたてのキクナをプレゼントする一幕。

集まることでできる農業の新しいカタチ

今では、東京NEO FARMERS!は、東京の都市農業において様々な役割を担っています。 一つは、企業からの依頼の受注です。
大手スーパーからの、「魅力的な生鮮売り場を作りたい」というような依頼をグループで受けることによって、双方にとって良い効果をもたらします。
新規就農者は、安定した販路の確保、スーパーは東京近郊の新鮮な野菜を多品種で安定的に取り揃えることができる。
スーパーにとって、他のスーパーとの違いを見せるのには、生鮮売り場が最も効果的です。
今では、東京NEO FARMERS!の農家だけでの売り場を作ってもらうほどの関係が構築できています。
それは、集まりに名前をつけたことも大きい、と松澤さん。
名前がブランドになり、スーパーからそういった依頼が来るようになったとのこと。

また農業参入を考えている企業とのコラボレーションもあります。
企業は農業を担う人材の確保に苦心しています。そこに研修生として受け入れてもらい、新規就農者が給料をもらいながらそこで農業経験を積むというような仕組みも生まれました。


スーパーなどの大きな企業にとっては、個人の農家と取引することは様々な面でハードルが高く、不安定な面もあります。
しかしネットワークとして受けることによって、お互いのいいところを引き出す関係になれます。

東京に次ぐ大消費地である大阪でも、こういった連携を作っていくことは不可能ではありません。
都市農業振興基本法の成立によって、これから都市農業を取り巻く環境が大きく変わっていく中、
新規就農者が活躍できる地盤作りを始めていくことも、今の大阪市内農業には重要かもしれません。

農業者ネットワークの可能性

回を経るごとに参加者も増えてきました。ついに最終回を残すのみとなりました。

松澤 龍人

guest’s profile

松澤 龍人 さん

東京都農業会議: http://tokaigi.com
東京NEO FARMERS!:https://www.facebook.com/東京NEOFARMERS/
1992年に東京都農業会議に入り、2006年より新規就農の担当に。2009年に東京初の新規就農者が誕生。以降、毎年100人を超える新規就農希望者の相談に応じる。2012年9月に東京NEO-FARMERS!を結成。これまで50人以上の若者などを新規就農あるいは東京都内に新規参入する手助けをし、農業法人などへの就職に導いた。

2016.3.22
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : kayono kitamaki(NPO Co.to.hana)

農家と消費者の本当に対等な関係

一覧へ戻る

変わらないものと変わるもの

Top