大阪市内農業のこれから

(大阪「農のカタチ」セミナー 2016.3.19)

大阪「農のカタチ」セミナー

大阪市内の農業を盛り上げていくためにはどうすればいいのでしょうか?
この難しい問題を、市内の生産者、飲食店、販売店、行政、消費者が分野を超え一緒になって考えるのが、この「大阪『農のカタチ』セミナー」です。
それぞれの分野で活躍する方をゲストにお招きし、活動のプレゼンテーションと「大阪市内農業のこれから」をテーマにトークセッションを行いました。
当日のレポートをお届けします。市内農業の現状や可能性について、ぜひ一緒に考えていきましょう。

大阪「農のカタチ」セミナー

農家、飲食店、販売店、消費者、それぞれの分野から60名を超える方にご参加いただきました。

都市農業に吹く追い風
(近畿農政局 農村振興部 農村計画課 課長  阪口 正博氏)

大阪「農のカタチ」セミナー

阪口さんからは、都市農業にまつわる制度面についてお話いただきました。

これまで都市農地は、「宅地化すべきもの」としてみなされていました。高度成長期に住宅が足りず、どんどん開発していく必要があったからです。しかし人口減少時代に突入し、住宅需要も降下しています。さらに都市住民の中でも、農地を守るべきという風潮が強まってきてます。それらの背景があり、都市農地の価値が見直され、2015年4月に「都市農業振興基本法」が成立し、「都市農地はあるべきもの」と再評価されたのです。

都市農地は、面積的には全国の農地の2%程度です。しかし農業販売額は全国の10%を担っています。これまで注目されていませんでしたが、実は国内の生産を支えるという意味でも都市農業は重要です。

2015年に基本法が施行され、2016年4月下旬に基本計画が施行される予定です。現在農林水産省と国土交通省でそれぞれ審議されています。
そこから基本計画を元に、各自治体毎でも地方計画を定めていき、具体的に都市農業の制度が変わっていきます。
これまで税制面、法制面で厳しい条件があった都市農業ですが、これから大きく状況が変わっていくことが予想されます。

大阪「農のカタチ」セミナー

大阪市内農業を語る上で、「都市農業振興基本法」は避けて通れないトピックです。

都市の農地には多くの役割があります。都市にゆとりを生み出すためには必要不可欠なのです。
例えば、福祉と農の連携、災害時の防災拠点、農業体験や教育の場としての意義もあります。

現在の都市農業の税制度についても簡単にご紹介します。
都市の農地は、「宅地並」の課税がされます。(*市街化区域内にある農地)
しかし、「生産緑地」に指定されることで、固定資産税や相続税に猶予が与えられます。
都市部で農業を営むためには、この「生産緑地」の指定を受けることが必須だといえます。 しかしこれを受けるためには、一生農業に従事すること、他人に賃借することの禁止などの制限があり、自由な農業経営ができなくなっています。

今回の都市農業振興基本計画をきっかけに、こういった制度も見直されていく可能性があるのです。

アート、音楽、ベーカリー、
新しい切り口で豊かな食世界への間口を広げる料理開拓人
(料理開拓人 / foodscape!主宰 堀田 裕介 氏)

大阪「農のカタチ」セミナー

堀田さんからは、料理人として全国の生産者と一緒にどんな想いで活動してきたのかをお話いただきました。

僕はもともと千里ニュータウンで育ったので、決して身近に農業があるわけではありませんでした。ずっと都会だったので、そのギャップで今のような仕事をしているのかなと思うこともあります。

僕の仕事は、食にまつわる様々な社会課題を、その地域の人と協力しながら改善していくということです。
例えば獣害問題や、一次産業で働く人たちの生活の問題などです。具体的には、レシピ開発やイベントの企画などを通して関わることが多いです。お客さんは自治体から農業生産法人、飲食店など様々。こどもへの食育活動などもやっています。

都市部では農に触れたい人も増えているが、もっと本気で農業に関わってみたいという人も増えているように感じます。僕もその一人で、滋賀の友達の米農家のところに8年通っています。

僕は、農業だけではなく、幅広く一次産業に関わっています。
淡路島ではちりめん漁師の漁船に乗せてもらう機会をいただけ、
その中で漁師もそれ一本で食べていくことが厳しく、アルバイトしながらやっているひとがいることを聞きました。

とにかく、そういった様々な問題を食、料理を通して解決できないかと活動しています。

僕の活動のひとつに、「foodscape!」というケータリングパーティーがあります。
一次産業に従事する方から、消費者、飲食店の方に集まっていただき、美味しく美しい食を囲んでの交流を通して、お互いのことを知り、出会うというものです。
foodは、食と風土という意味、そして風景を意味する「landscape」を組み合わせた造語です。この活動も様々な島や中山間地域などで展開しています。

他にも音楽と食を掛け合わせた「EATBEAT!」というイベントもやっています。

僕がこういう活動をやっているのは、食のことを真面目にやっても、知識があったり元々関心が高い人しか来ないだろうと考えているからです。
だからこそ、若い人にも面白がってもらう工夫を凝らし、まずは実際に足を運んでもらうことを大切にしています。そこで得られる気づきがあるはずだと思っています。

そして今は福島区でベーカリー「foodscape!」という店舗を構えました。
パンという間口の広いアイテムをきっかけに、全国で出会った生産者と消費者をつなぐことができればと思っています。

大阪「農のカタチ」セミナー

価格や軽食として、若い世代も買いやすいパンという切り口で生産者の想いを届けます。

このお店のコンセプトは「FARM TO BAKERY」。FARMは畑という意味だけではなく、一次生産の“源流”という意味で捉えています。

さらに、この4月から中之島図書館で「smorrebrod kitchen(スモーブローキッチン)」という北欧スタイルのオープンサンドのお店の監修をさせてもらってます。
ここでは店の近くに小さな畑をつくる予定で、野菜の新鮮さを体感し、農を身近で楽しんでもらうようなことも考えています。

全国の生産者の元へと飛び回り、
生産者と消費者、飲食店の想いをつなげる八百屋
(ドクター・オブ・ジ・アース株式会社 田中 哲平 氏)

大阪「農のカタチ」セミナー

田中さんからは、産地直送で野菜販売をするときに大切にしていることをお話いただきました。

僕たちは、千里中央に「野菜ソムリエの店 のら」という小さな八百屋を構えています。会社名の「ドクター・オブ・ジ・アース」にもあるように、野菜販売を通して地球のお医者さん、つまり地球環境の改善に貢献していきたいという思いで仕事をしています。

10年前から野菜バイヤーとして全国を飛び回り、本当に努力をして美味しい野菜を頑張ってつくってる農家さんに出会い、産地直送で野菜を販売しています。

元々は農業のことは全くわかりませんでした。しかしこの分野に入って、なかなか見えない農家さんの努力を知ることができた。しかし、同時にこの感動は消費者に届いていないことに気づきました。いままでの野菜の売られ方では、品種や栽培方法などのこだわりを伝える機会がないし、珍しい野菜は流通させにくい状況があります。
それらの価値が見出されていないと感じています。

小売店のほかにも、飲食店向けへの産地直送システムもやっています。現在200店舗ほどの飲食店とお付き合いさせてもらっています。

しかし、産地直送をやっていて難しさも感じています。
例えば端境期の品揃えです。限られた人数や地域の農家さんだけだと、冬などに野菜がなくなることもしばしば。
ロットの問題もあります。飲食店がおいしいとうもろこしを5本欲しいと思っても、農家側とすればそれだけを送るのは効率が悪すぎる。
農家と飲食店は本来相思相愛のはずなんですが、なかなか長続きしにくいということがしばしば起こります。

僕たちはこれを解決するために、独自の受発注システムと流通をつくりました。
これによって、タイムリーな生産状況、飲食店向けへの小口発送を可能にしました。
全国の産地の野菜を一旦大阪に集荷し、そこから小口発送しています。
WEBを介した受発注システムでは、農家さん自身が来週の出荷予定数を入力し、それを見た飲食店が注文するので、欠品が起こりにくいです。いまでは、毎月100アイテム以上の野菜が品揃えされています。
さらにこのシステムは飲食店だけでなく、小売店などにも広がりつつあります。

大阪「農のカタチ」セミナー

参加している方は、まさに飲食店、販売店の方々なのでとても身近なテーマのお話でした。

こういった取り組みを通して、農家さんから見ても野菜が誰に食べられているのかがわかり、価格も自分で決められ、消費者の感動の声が届くようにしたいと思っていました。産直の野菜はそういった体験がないと流通していかないと思っています。

農家さんにとっても新たな選択肢となり、豊かな食や環境をつくることにつながっていくと考えています。

トークセッション「大阪市内農業のこれから」

ここからは、ゲストの4名で行ったトークセッションについて紹介していきます。 それぞれの視点から考える市内農業の可能性、これからの具体的な連携に向けてなにが必要なのか?など、都市農業の未来に向けての議論を行いました。

大阪「農のカタチ」セミナー

大阪市内の農業を牽引していく存在の西野さん。まずは西野さんの農業について聞いていくところからトークセッションがはじまりました。

堀田:まずは西野さんのやってる農業について教えてもらえますか?何を栽培しているんですか?

西野:今はちょうど端境期です。なので、春菊、小松菜、しろ菜などをハウスで時期をずらしてやっています。春菊は9月から7月までほぼいつでもやっています。 市場出荷が2/3。後は飲食店や八百屋などが売り先ですね。夏場はトマトなどを作って直売もしています。

堀田:実は、このイベントの前にお邪魔させていただいたんですよね。キャベツの菜の花がとても綺麗で摘ませていただいたりして感動しました。あんなに大きな畑が市内にもあるんですね。

大阪「農のカタチ」セミナー

なんとサプライズで西野さんが、菊名と小松菜をもってきてくれました。とてもみずみずしく、余計な苦味のない美味しい菊名は絶品です。

田中:5 ,000㎡の畑ということですが、産地に比べるとやはり少し小さいですね。でも市内でそれほどのものがあるのは知りませんでした。

堀田:僕の地元も昔は畑多かったみたいですが、今はマンションや駐車場。車止まっていないところとか見ていると、畑にしたほうがいいよね。と思います。

西野:これまで、都市の農地というのはいらないものという認識をされていましたが、今都市農地の価値を見直そうという流れになってきている。行政や様々な方と連携しながら、もっと市内農業を認めてもらっていきたいと思っています。

田中:農業は何年目ですか?

西野:今年で36年目ですね。親も農家で、2年サラリーマンした後、25歳のときに就農しました。転勤が多い仕事だったので、農地を守るためにもやはり農業で頑張ろう、市内農業を追求してみようと思うようになりました。

堀田:都市農業として他にも取り組みをされているんですか?僕がみた「野菜自動販売機」がすごく良かったです。あれが街中にあったらいいのになと思いました。

西野:あれはトマト直売のお客さんとかから、春菊とかも欲しいという声が大きくて、たまたま友人に譲ってもらえたので導入しました。はやり一人一人に対応していると時間がいくらあっても足りないですから、少ないですが自動販売しています。あれは、究極の地産地消と言えるかもしれませんね。 他にもこどもたちや障がい者への収穫体験、農業体験農園を30区画ほどやっていたりします。体験農園は家族連れから飲食店の方まで、様々な人が参加してくれています。体験農園は市街化区域でもできる市民とつながれる場として有効ですね。

阪口:農業体験農園は都市農業から生まれた仕組みです。先ほども話したとおり、他人に貸借りできないので市民農園はできないんですね。そこで、農業者がメインに栽培しているという前提で、市民が栽培指導を受けながら研修を受けていくというものになります。もちろん収穫できた野菜も持って帰ることができます。

大阪「農のカタチ」セミナー

市内農業をする上で特殊な制度が壁になることもしばしば。そこから生まれた独自の取り組みもあります。

大阪「農のカタチ」セミナー

西野さんの畑を見学させていただいたときは、野菜自動販売機でとても盛り上がりました。

- 堀田さん、田中さん、大阪市内で事業をされていますが、市内の農家さんとの関わりや取引はありますか?

堀田:今はないですね。鮮度とか、顔が見える関係とかつくる意味でも、絶対いいのは市内の農家さんと連携できることですね。そうすればお客さんにももっと農業の魅力を伝えていけると思っています。

田中:僕も同じです。遠い産地から取り寄せるのはやはり送料がかかるんですよね。あとトウモロコシやアスパラなど、鮮度による糖度落ちが激しいものはやはり近くから集めたい。そういう農家さんがいれば、本当に連携したいです。

西野:今の僕が取引している人は、みんな畑にとりにきてくれています。夜中の3時とかに春菊を取りに来て、売ってくれている八百屋や飲食店さんもいます。送料と時間のことがあるからこちらから送るというのはあまりやっていない。あとせっかく取りに来てくれても、鮮度が落ちた状態で販売しているような方とはお付き合いをお断りすることもあります。様々な問題が起こるので、それを乗り越えられる信頼関係で成り立っています。

堀田:例えば、西野さんのような市内農家さんのところを軽トラックで巡って、様々な飲食店に販売してくれる人とかいないんですかね?

田中:いるかもしれないですね。でもおそらく需給バランスの問題がでてくると思います。収穫できているときはいいですが、とれなくなったときに飲食店との関係をどうするか?市内農地で野菜をいつも確保できるかが問題ですね。
その解決としては、都市農業は産地化されていないことを逆手にとって、少量多品目の野菜を育てることで飲食店も旬の野菜を常に手に入れることができるようになると思います。

大阪「農のカタチ」セミナー

10年間野菜を売ってきた立場から、難しさと可能性について語る田中さん。鮮度という魅力は他の産地では絶対に実現できない、市内農業の魅力です

西野:しかし、実は大阪市内の農業っていうのは、ひとつの野菜を極める専門職なんですね。春菊なら春菊、ナスならナスというような農家がほとんどです。
これからの市内農業が残っていくためには、そこを変えていかないといけないと思っています。やはりこれまでのこだわりもあるが、いろんな種類の野菜をつくっていきたいですね。
だけどもそれと同時に、野菜を売る場所をつくらないといけないですね。ただそれは農家だけでは厳しいのが現実です。

堀田:鮮度は重要なキーワードだと思っている。消費者は無農薬や農法、有機栽培などにこだわる人はとても多いが、鮮度という視点が絶対的に抜け落ちている。味に影響を与える要素としては鮮度はかなり大きいです。
まずはそこを体感し、理解することかなと思います。取ってすぐ食べるのが一番美味しいのに決まっていますからね。その感動をみんなでシェアすれば、市内農業を応援しようという動きが出てくる。

田中:本当にその通りですね。それを体感できる機会が圧倒的に市民にはないんですよね。大多数の方が市内で農地があることすら知らない現状。まずは情報発信をしていくことも必要だと思いますね。

西野:そうですね。消費者の意識を高め、最終的には直売所、スーパーのインショップなどを増やしていかないといけない。
そこが行政や事業者が手を組んで、みんなで取り組んでいくポイントなのかもしれません。

大阪「農のカタチ」セミナー

これをきっかけに、分野を超えた新たな事業、活動が生まれることを期待してトークセッションが終了となりました。

大阪「農のカタチ」セミナー

その後行われた、参加者のみなさんも交えての交流会も大変盛り上がりました。

大阪「農のカタチ」セミナー

農業塾に参加していただいた市内農家さんもいらっしゃり、これまで出会うことのなかった人との交流が生まれました。

大阪「農のカタチ」セミナー

終わりの挨拶も行き届かないくらいに盛り上がって、時間を惜しみながらセミナーが閉会しました。

セミナーゲスト

guest’s profile

(写真左から)

堀田 裕介さん

料理開拓人 / foodscape!主宰
http://food-scape.com

西野 孝仁さん

阪口 正博さん

近畿農政局 農村振興部 農村計画課 課長
http://www.maff.go.jp/kinki/seisaku/nosonsinko/

田中 哲平さん

ドクター・オブ・ジ・アース株式会社
http://www.dr-earth.co.jp

2016.3.25
report : yasutaka kaneda(NPO Co.to.hana)
photo : shibata yosuke(NPO Co.to.hana)

変わらないものと変わるもの

一覧へ戻る

Top